論文 - 中村 安宏
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「即身仏」の思想-湯殿山と羽黒山の対立、神仏分離、及び岩手との関係を手がかりに-
中村安宏
岩手大学人文社会科学部宮沢賢治いわて学センター編『賢治学+』第4集 ( 杜陵高速印刷出版部 ) 78 - 100 2024年09月
学術誌 単著
湯殿山系即身仏は①なぜ、どのように生まれたのか、②そもそも彼ら当人の思想はどのようなものであったのか。①については、湯殿山と羽黒山との対立のなかで、出羽三山を天台宗で統一しようとした羽黒山側に対し、湯殿山側で真言宗色を強めていく過程で死後、作成されたものであったこと、②については、鉄門海が両山の対立を、修行や布教救済活動に使う火の、湯殿山側の方の優越の主張に結びつけるとともに、断食修行の意味づけを行なっており、生前の活動を導く思想を形成していたこと、また主に鉄竜海への考察を通して、彼らの活動の根拠には「即身仏」間の「つながり」を重視する思想もあったことなどを明らかにした。
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中村安宏, 鹿野朱里
アルテス リベラレス(岩手大学人文社会科学部紀要) ( 112 ) 19 - 29 2023年06月
その他(含・紀要) 共著・分担
『亀鏡志』は鶴岡の注連寺に祀られている「即身仏」鉄門海の座布団の下から見つかり、現在は鶴岡市郷土資料館に所蔵されている、鉄門海の思想を探るための最良の資料。読みやすさを考慮して句読点を加えたほかは、原文をそのまま翻刻している。さらに難しい字句には注釈を施し、引用経典はすべて現代語訳を付し、これまでの間違いが多い2つの翻刻についての正誤表も加えている。分担は、鉄門海と『亀鏡志』についての解説は中村安宏と鹿野朱里、翻刻の凡例は中村、翻刻文と注の作成は中村と鹿野、正誤表の作成は鹿野が担当。
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天保改革の「出版奨励」と北方各藩
中村安宏
歴史 ( 東北史学会 ) ( 140 ) 81 - 104 2023年04月 [査読有り]
学会誌 単著
従来ほとんど取り上げられてこなかった幕府天保改革の「出版奨励」について、政治史研究、思想史研究、出版史研究を活用しながら、その発令意図と、それに対して北方各藩がそれぞれ抱えていた事情の下、どのように対応したかを究明した。その結果、「出版奨励」は同時期に始まった幕府による直接「検閲」と抱き合わせの政策であり、そこには老中水野忠邦の諸藩の出版事業を幕府の「検閲」システムの下に組み込もうとする政治的意図があること、各藩の対応については、盛岡藩では「出版奨励」を利用して「寛政異学の禁」を実現しようとしたこと、弘前藩では幕府の教学に従いながらも「出版奨励」には応ぜず、自藩の藩校の整備に専念したこと、秋田藩ではもともと「寛政異学の禁」には従わなかったが、「出版奨励」と検閲に対しても危ぶみ、この政策が同藩に重くのしかかっていたことを明らかにした。
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中村安宏, 鹿野朱里
アルテス リベラレス(岩手大学人文社会科学部紀要) ( 110 ) 13 - 31 2022年06月
その他(含・紀要) 共著・分担
「即身仏」に関する従来の研究に疑問を投げかけ、これまで本格的に取り扱われてこなかった『亀鏡志』について、引用典籍の分析、平安時代の「往生伝」などに見られる焼身往生・入水往生との比較を中心に、鉄門海において、断食や土中入定は直接、庶民救済・他者救済にかかわるものではないことを論じた。また、補論では鉄門海やその門下(南海・鉄竜海など)の盛岡藩領・岩手県域における活動について、新発見の資料をもとに、その展開の主要なところを明らかにした。分担は、鉄門海の生涯・活動と思想については鹿野朱里、『亀鏡志』の思想、及び盛岡藩領・岩手県域における鉄門海とその門下の布教活動については中村安宏と鹿野が担当。
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朝鮮と日本における科挙観と中華思想-李退渓と室鳩巣を中心に-
中村安宏
退渓学論叢 ( 退渓学釜山研究院 ) ( 38輯 ) 7 - 30 2021年12月 [査読有り]
国際的学術誌 単著
ともに朱子学者であり、科挙制度に批判的でありながら、書院創設運動へと向かった李退渓と、人材推薦策を提言した室鳩巣との政策論の相違の背景に、中華とりわけ明に自己を同一化していこうとする李退渓と、中国とは距離を置く視座を保っていた室鳩巣との違いがあることを明らかにした。さらに、その違いが18世紀後半以降において広がっていく背景には、朝鮮における小中華意識の高まりと、日本における天皇の浮上、皇統意識の高まりがあることを明らかにした。
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中村安宏
日本思想史学 ( 日本思想史学会 ) ( 52 ) 56 - 72 2020年09月 [査読有り]
学会誌 単著
松本藩領貞享百姓一揆についての記録(石碑も活用)を追いながら、加助ら一揆の主導者に対する地域の人々の、近世の供養の思想と、近代の顕彰の思想とを見ることを通して、近世の仏教の役割と「民衆思想」の従来知られていなかった側面、近代の儒学の役割を照らし出そうとした。その結果、「民衆思想」は安丸良夫氏が言うような、「自己形成」「自己鍛練」だけで捉えきれるものではなく、百姓たちの、亡くなった「他者」への思慕を共有する結びつきに関わる供養の思想は、地域社会の百姓たちの心のなかに生きつづけていたこと、明治になって加助は、昌平坂学問所で学んだ儒学的知識人・武居用拙らによって自由民権運動の先駆者として顕彰されることになるが、儒学はこの運動の高まりと広がりとも無関係ではなかったことを見出した。
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盛岡藩における出版事業-盛岡・花巻・遠野-
中村安宏
岩手大学人文社会科学部宮沢賢治いわて学センター編『賢治学+』第3集 ( 杜陵高速印刷出版部 ) 27 - 36 2023年06月
学術誌 単著
2022年3月に開催された同センター第2回シンポジウム「盛岡藩の言論と出版」での講演をもとにしたもので、これまでほとんど研究されていなかった盛岡藩における出版事業に光を当てた。「盛岡藩校明義堂-作り分けられた「四書五経」」「花巻郷校揆奮場-目を付けられた活字版」「遠野郷校信成堂-偽りの整版」からなる。
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中村安宏
アルテス リベラレス(岩手大学人文社会科学部紀要) ( 103 ) 1 - 19 2018年12月
その他(含・紀要) 単著
佐藤一斎が林家塾長期に書いた『言志録』と『言志後録』について、原稿から出版に至るまでに、どの段階で、どの条文を削除挿入したり、配置を変更したり、どのように書き改めたりしているかを、青年期の思想との関わりにも注目して分析し、一斎の思想の成り立ちと変遷を探った。その結果、『言志録』では、「寛政異学の禁」の政治力による上からの強制に対し、一般人の立場から社会に感化を及ぼしていくための己の工夫が注目され、門戸を標榜し争うことが自己の心のあり方の問題に還元されて否定されていたこと、青年期と同様に国際上の道の普遍性を説いているが、考証学の流行のなかで文字にとらわれることを批判して心を尊重し、文字の違いを超えたところの道の普遍性が説かれていること、『言志後録』では教育者としての立場から、他の学ぶ者の自得が尊重され、また学の構成づけがなされていることを明らかにした。
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中村安宏
日本思想史学 ( 日本思想史学会 ) ( 50 ) 138 - 154 2018年09月 [査読有り]
学会誌 単著
宣長以後の超越者観念の展開について、国学の内部にとどまらず検討しようとした。一斎が後年、みずからの諸思想を天を軸に体系化した背景には宣長の思想があり、一斎の天は宣長の神と対決し、それを乗り越えようとするなかで形成されたものであること、すなわち、一斎は天を人間の知力を超越した存在でもあったが深慮をもち、また人の善悪への応報について厳正、特定の国だけ贔屓することはしない公平、さらには霊明なものとして信頼感をもって受けとめており、性=天を拠り所にして身体の生死を相対化する死後安心論を説いていたことなどを指摘した。
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中村安宏
アルテス リベラレス(岩手大学人文社会科学部紀要) ( 102 ) 25 - 47 2018年06月
その他(含・紀要) 単著
佐藤一斎の年譜として現在のところもっとも備わっている田中佩刀氏の「佐藤一斎年譜」(『佐藤一斎全集』第9巻所収、明徳出版社、2002年)に漏れている著述などを補うとともに、一斎の文詩集『愛日楼全集』とその諸稿本を分析して、その成果を取り入れることに主として努めた。
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検閲と幕府儒者-天保改革の文教政策-
中村安宏
歴史 ( 東北史学会 ) ( 130 ) 26 - 49 2018年04月 [査読有り]
学会誌 単著
天保改革期の検閲について、昌平坂学問所の内部資料(新資料)を活用して、統制が強化されたとする従来の研究に疑問を投げかけ、幕府儒者がかかわることになって、荻生徂徠『政談』、中井竹山『草茅危言』など政治関係のものを含む書物群「拙修斎叢書」や蘭学書が検閲を通過したこと、林家は国学書の検閲から手を引いていくことを明らかにした。
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大川真著『近世王権論と「正名」の転回史』
中村安宏
文芸研究-文芸・言語・思想- ( 日本文芸研究会 ) ( 183 ) 78 - 79 2017年03月
学会誌 単著
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桐原健真著『吉田松陰-「日本」を発見した思想家』
中村安宏
文芸研究-文芸・言語・思想- ( 日本文芸研究会 ) ( 182 ) 54 - 55 2016年09月
学会誌 単著
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若尾政希著『近世の政治思想論-『太平記評判秘伝理尽鈔』と安藤昌益』
中村安宏
文芸研究-文芸・言語・思想- ( 日本文芸研究会 ) ( 176 ) 48 - 49 2013年09月
学会誌 単著
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盛岡藩儒、照井一宅と江帾五郎の思想
中村安宏
吉田公平教授退休記念論集刊行会編『哲学資源としての中国思想-吉田公平教授退休記念論集』 ( 研文出版 ) 333 - 352 2013年03月
その他(含・紀要) 単著
盛岡藩の幕末期における、照井一宅と江帾五郎という二人の個性的な儒学者の思想を東条一堂学・後期水戸学と比較しながら解明しようとした。一宅は人間の本質を「交リ」=「互ニ厄介スル」ことに見出し、身分の上下を問わず「人ヲ服スル」ためにはどうしたらよいかを示したこと、五郎は天皇(皇統)や武威を日本の優越性の拠り所とするいわゆる日本型華夷意識を否定し、中国を劣等視せず相対化して捉えていたことを明らかにした。
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文化・文政期の学問思想-寛政文教政策、および宣長学との関連に注目して-
中村安宏
文芸研究-文芸・言語・思想- ( 日本文芸研究会 ) ( 169 ) 40 - 50 2010年03月 [査読有り]
学術誌 単著
思想史から見たとき文化・文政期はどのように特徴づけられるのか検討した。その結果、従来の林家学を尊重した「学規」がそののちの幕府教学の基本となり、考証学や詩文の流行の素地となった点、本居宣長が神々の世界を構築し、天の働きへの否定的見解を述べたのを契機に、平田篤胤・会沢正志斎・佐藤一斎において天が強く打ち出されるようになった点、宣長が、死後は黄泉に行かざるをえないと述べたのに対し、篤胤・一斎において新たな死後安心論が形成された点などを明らかにした。
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近世知識人の霊魂観-朱熹魂魄説からの逸脱-
中村安宏
季刊日本思想史 ( ぺりかん社 ) ( 73 ) 37 - 54 2008年10月
学術誌 単著
朱熹の魂魄鬼神・祖先祭祀説は徳川社会において、霊魂の滅亡を結果することが強調されて受け取られ、垂加神道家や陽明学信奉者、後期水戸学者などにより、そこから逸脱した独特な霊魂観や死生観が形成されるが、その内容について検討した。その結果、陽明学信奉者の説では、個人が超越的・根源的な存在との一体を求めるものであったのに対し、垂加神道や後期水戸学の場合、霊魂や霊魂への思いは天皇や日本に結びついていくことを明らかにした。
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中村安宏
長谷川成一監修、浪川健治・佐々木馨編『北方社会史の視座-歴史・文化・生活-』第2巻 ( 清文堂出版 ) 205 - 229 2008年02月
その他(含・紀要) 単著
北方各藩のうち、弘前藩、盛岡藩、秋田藩を取り上げ、江戸時代における三藩の儒学を相互に比較することにより、各藩の儒学の特徴を明確にしようとした。その結果、弘前藩においては素行学の展開と津軽寧親の教学振興策、盛岡藩においては儒者弾圧事件と照井一宅・江帾五郎の思想、秋田藩については仁斎学・闇斎学の展開と入江南溟・山本北山との関係に特徴が見られることを明らかにした。
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近世後期幕府儒者の思想的位置に関する研究
中村安宏
科学研究費補助金基盤研究(C)(2)研究成果報告書 1 - 40 2004年06月
その他(含・紀要) 単著