論文 - 梁 仁實
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トランス/ローカルシネマとしての済州4.3映画
梁仁實
年報朝鮮学 ( 九州大学朝鮮史学研究室 ) ( 26 ) 134 - 111 2024年06月
学術誌 単著
韓国の近現代史において済州4.3は島民の3分の1以上が犠牲となった点ともっとも悲劇的な出来事の一つである。1947年から朝鮮戦争のあとの時期まで続いたこの出来事については韓国の政治的状況もあり、長い間タブーとなってきた。とりわけ、ポピュラー文化の一つである映画ではその観客動員力はもちろんのこと、政府からの検閲や監視のもとで映画化することは容易ではなかった。しかし、1990年代以降済州の放送局を中心としたテレビドキュメンタリーやドキュメンタリー映画で少しずつ済州4.3を主なテーマとして扱うようになった。本稿では今まで済州4.3を扱ってきた韓国映画を取り上げ、その表現やテーマの扱い方がいかにロカールからトランス/ローカルになっていっているのかについて論じた。
済州4.3映画ともいえるこれらの映画は地元の済州で済州の人々を中心に映画化され始めたが、2000年代以降になると全国的に広がり、今は在日コリアンによる/に対する映画も数多く作られている。済州から日本に渡った在日コリアンの多くが済州4.3と何らかの関係があり、密航していた人々も多いからである。しかし、レットパージのレッテルや帰国事業により北朝鮮に渡った家族のことで5,60年間済州に来ることが出来なかった多くの在日済州人がいる。
本稿では韓国映像資料院のデータベースをもとに、済州4.3をテーマにする映画をリスト化し、それらをいくつかの類型に分類した。この分類から明らかになった知見は以下のようになる。1)1963年に米軍や政府の立場から描かれた済州4.3は1989年までドキュメンタリー作業さえできないテーマであった。2)1990年代末から済州の映画人を中心に海外に済州4.3を知らせようとする映像(英語、中国語、日本語字幕付き)が多く作られるようになった。3)2010年代以降済州4.3を描く映画は急増し、ジャンル的にも内容的にも多様化されつつある。さらに、ここ4,5年間では済州4.3映画祭が行われるくらい、済州4.3映画は一つのジャンルとなった。また、ライフヒストリーや関連調査で明らかになってなかった女性の身体に刻印された被害についても語るようになったのも近年の済州4.3映画の一つの特徴であることを明らかにした。 -
The Location of Female Characters: Adaptation of Korean Fim Parasite and Zainichi Koreans
YANG INSIL、中里まき子、高橋愛ほか
響き合う女性像 ( 国際研究集会成果報告書論文集 ) ( 1 ) 51 - 68 2024年02月
その他(含・紀要) 単著
韓国映画の『パラサイト:半地下の家族』(2019、ボン・ジュノ)は貧富の格差や社会に渡る問題を鋭く描いたものとして世界的に高く評価された。本稿でこの映画に注目するのは映画そのものではなく、日本でこの映画が演劇として製作されたところである。とりわけ、この演劇には在日コリアンの李鳳宇や鄭義信がかかわったのでも話題になった。映画ではソウルの新興金持ちの家が映画では神戸に、主人公の家族は在日タラ占める要素をあらわにしつつも在日であることは明らかにしない設定となった。また、映画で重要な役割をしていた家庭教師の女性の役割が演劇では家庭教師をする子供が隠されることによって女性キャラクターの役割が縮小された点を明らかにした。演劇は個人の役割やキャラクターよりは1990年代半ばの神戸と阪神淡路大震災を描くことによって日本社会全般の在日コリアンへの差別が温存していることを描き出したのである。
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交差する権力と日本軍「慰安婦」の歴史 (翻訳)
梁 仁實
女性・戦争・人権 ( 女性・戦争・人権学会 ) 2022年03月 [査読有り]
学会誌 単著
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1930年代京城と女/性ー2010年代以降の韓国映画を中心に
梁 仁實
アルテスリベラレス ( 岩手大学人文社会科学部 ) 107 145 - 156 2020年12月
学術誌 単著
1980年代の民主化以降、韓国映画は表現の制約から離れ、タブーなしの映画化に臨んできた。とりわけ、近現代史において多くの歴史的出来事や抗争、植民地の経験などに対するアプローチはダイナミックに変化し続けてきた。2010年代以降、歴史の主体は一部の英雄ではなく、女性や「名もなき民衆」であったことに注目する映像コンテンツも数多く作られている。本稿はここに注目し、1930年代の植民地支配と女性の表象が2010年代以降の韓国映画においてどのように描かれてきたかを考察した。
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韓国女性映画人の戦争と<戦後>
中里まき子、エリック・ブノワ、照井翠、佐藤竜一、秋田淳子
文学における宗教と民族をめぐる問い 2017年02月
その他(含・紀要) 単著
本研究は朝鮮戦争の直後、韓国の映画界において女性映画監督として活躍した朴南玉に関するものである。朴南玉は<戦後>直後の混乱のなかで戦争のもっとも大きな被害者である女性と子供に焦点をあて、女性が「母性」に満ちた「母親」でなく、いかに自分らしく生きていくことができるのかを映画化した。朴南玉の代表作『未亡人』はまさに戦後直後の混乱であるからこそ製作できた作品である。
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映画『授業料』の受容
中里まき子編
無名な書き手のエクリチュールー3.11後の視点から 2015年12月
その他(含・紀要) 単著
植民地朝鮮と内地日本の合作のうち、好評を得た数少ない作品の一つに『授業料』というものがある。小学生の作文に基づき、日本の著名なシナリオ作家が手を加えたこの作品は朝鮮の「綴方教室」とも呼ばれながら、日本に受容されていた。本稿では作文からシナリオ化、シナリオから映画化の翻訳の過程で時代的背景が強く反映されていたことを明らかにした。
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済州四・三と密航、そして家族物語
梁仁實
アルテス リベラレス ( 92 ) 2013年06月
その他(含・紀要) 単著
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日本のテレビ映像における在日済州人の表象
梁仁實
日本批評 ( 8 ) 80 - 117 2013年02月 [査読有り]
学術誌 単著
近年日本のメディアでは在日済州人という言葉が度々登場している。それらのテクストのなかで在日済州人は済州4.3、密航、不法滞在、大阪市生野区、難民というキーワードとつながるものとなっている。本論文では1960年代のあるドキュメンタリー作品『金在元の告白』と最近の映像をテクストとし、そのなかの在日済州人表象が未来については楽観的でありながらも、過去の歴史については口を閉ざしてきた日本の多文化主義を反映していることを明らかにした。
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1930年代日本帝国内における「文化」交流:映画『春香伝』の受容を中心に
梁仁實
立命館言語文化研究 24 ( 2 ) 55 - 72 2013年02月
その他(含・紀要) 単著
朝鮮半島に古くから伝わる物語の『春香伝』は1930年代の日本帝国において日本内地にいる文化人たちと朝鮮半島にいる文化人たちの交流に重要な役割を果たした。本論文ではそれとともに、こうした『春香伝』の映画化をめぐる議論が文化人たちが図っていた「世界」への進出に成功できる一つのツールへとなっていったことを明らかにした。
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帝国日本を浮遊する映画(人)たち
梁仁實
国際高麗学会ソウル支部論文集 95 - 120 2012年01月 [査読有り]
学術誌 単著